ご依頼者様のご自宅に、ひときわ見事な牡丹の木があります。
その木は、ご自宅を建てられた50年前、ご実家から大切に移植されたものでした。

長年にわたり、ご家族とともに季節を重ね、春には華やかな花を咲かせてきた牡丹。
しかしこのたび、ご依頼者様は高齢者施設へご入居されることとなり、ご自宅も手放されることになりました。
牡丹は挿し木が難しく、さらに作業は木が眠る秋に限られるため、他の場所で生かすことは叶いませんでした。
この春が、あの牡丹が咲く最後の時となるのです。
満開の牡丹の前で、ご依頼者様との記念撮影をさせていただきました。
花が枯れるのもまた、諸行無常。
そして、花が咲くこともまた、諸行無常。
この言葉の奥深さが、胸にしみるひとときでした。
あの牡丹は、長い年月、ご家族の歴史を静かに見守っていたのでしょう。
子どもの成長、ご夫婦の歩み、日々のよろこび――
それらすべてを、何も語らず、ただそっと包み込んでいたように感じられます。

伐採の時が訪れようとも、牡丹の花は、ご依頼者様とご家族の心の中に、いつまでも優しく咲き続けることでしょう。
そして翌日、空は荒れ、大雨と強風が牡丹の花を散らしました。
――まるで、すべての記憶を静かに見送るかのように。
本当に、あの日お目にかかれたこと、そして美しい思い出を共有できたことに、心から感謝申し上げます。
かけがえのないご縁に、深い感謝を込めて。
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